- 人と組織の活性化
- Report
2018.05.14
「これからのコミュニケーションデザイン」対談 Vol.1
会社員のコミュニケーションは楽しくない、は本当?
「本音を言える」は、パフォーマンスを高め、イノベーションを生む。
「会社員のコミュニケーションは楽しくない?」
これは、先日発表されたコミュニケーション総合調査の結果の一つです。会社員としては"残念"な、この調査結果を、どう読めばいいのでしょうか。モチベーションの専門家として様々な企業でコンサルティングを行う野本明日香と、JTBコミュニケーションデザイン内組織であるワーク・モチベーション研究所の所長、菊入みゆきの対談で明らかにします。
会社員のコミュニケーションは楽しくない?
菊入コミュニケーション総合調査では、2017年を振り返り、「全体的に楽しくコミュニケーションを取れたかどうか」をたずねました。会社員は、楽しいと答えた人が45%で、大学生、主婦、リタイア層に比べて低い割合でした。
野本顕著に会社員の数値が低いですね。残念な結果ですよね。会社員はそもそも、「楽しいコミュニケーション」という考え方がないのかもしれません。「仕事なんだから、楽しいとか楽しくないとか関係ないでしょ」という思いもあるのではないでしょうか。
菊入調査では、コミュニケーションが楽しい理由と、逆に憂うつな理由もたずねました。楽しい理由のトップ3は、「気を使わなくていいから」、「本音が言えるから」、「心が休まるから」、そして、憂うつな理由のトップ3は、「気を使うから」、「本音を言えないから」、「心が休まらないから」でした。
野本気を使う、本音を言えない、心が休まらない。ううむ、みなさん、疲れていますね。使わなくていいエネルギーを使い、消耗している、という印象です。仕事そのものにエネルギーを注ぎきれない状況ですよね。本音ではないことを言おうとして、そこに時間もコストも取られてしまう。余分なエネルギーです。とてももったいないです。
菊入なるほど、確かに、もったいないですね。でも、たぶん多くの会社員の方々は、「仕事なんだから、本音なんて言えるわけないし、言う必要はない」と思っているのかもしれません。
野本もちろん、ここで言う本音とは、思ったことを何でも言うということではありません。コミュニケーションを取る際に、綺麗な当たり障りのない言葉で表面を取り繕うのではなく、皆が「本当はどうしたいのか」「本当はどうありたいのか」「本当はどんなチームでいたいのか」といったことについて、きちんと本音で語り合えているかどうか、ということなのだと思います。
「本音が言える」はパフォーマンスにつながる
菊入「本当はどうしたいのか、どうありたいのか」ですか。そういうテーマが本音で語れたら、いいですね。非常に強い内発的な動機付けになります。心の底から湧き上がってくるような、内から発するモチベーションが形成されそうです。内発的動機付けは仕事の成果につながるので、職場では特に重要です。本音を言えるということは、内発的動機付けを通じてパフォーマンスを高める、ということですね。ただ、職場で本音でそういうテーマを語るのは、勇気がいります。
野本そうですね。本音が言えない職場は多いと思います。私も、当事者たちが「限界集落」と自ら言うような厳しい状況の組織をサポートしたことがあります。社員同士が互いに不信感を持ち、「何を言っても、変わらない」というあきらめ感がありました。管理職のマネジメントがうまくいっていない、仕事の評価に納得できていない、組織としてのビジョンが見えない、上に提案しても上が動かない等、複数の要因が重なって、いわゆる学習性無力感が蔓延していました。
菊入自分が行動しても結果につながらない、つまり無力であるということを学習してしまったのですね。
野本そうなんです。サポートとして、1人1人のコーチングで不満を聞き出し、ガス抜きをしつつ、自身がどうしたいのかを言語化したり、部下の意見を匿名で我々から組織課題として管理職にフィードバックを行うなど、様々な対策をとりました。その結果、一番最初の分かりやすい変化としては、社員同士のあいさつがでるようになりました。簡単なことに思えるかもしれませんが。
菊入ああ、素晴らしいですね! あいさつこそ、強制されるものではなく、自発的かつ日常的な行為ですものね。これが変化の第一歩というのは、とてもよくわかります。
「ゆるむ」から集中できる
菊入本音が言える職場って、一体どんな感じなんでしょうか。野本さんが経験された中ではどうですか。
野本いくつかの会社では、そういう理想的なコミュニケーションが交わされています。そういう職場では、「ユニークなこと」が良いこととして受け入れられています。面白いという意味だけでなく、他と違っているという意味合いです。ちょっと変わっていてもOK。誰でも本音を言えるし、余分な気を使いません。エネルギーはすべて、今目の前にある仕事に投入できます。だからこそ、そこでは化学反応が起こります。さらに私たちコンサルタントが情報提供しながらファシリテーションしていく中で、モチベーションが高まり、ハイパフォーマンスを生むゾーンに入ります。従来の枠組みを超えた、非常にクリエイティブなアイデアが生まれたり、思いがけないビジネスの着想が生まれたりします。
菊入まさにイノベーションですね。チクセントミハイの言うフロー状態を思い出しました。フローでは、自分の能力に見合ったタスクに没頭することで、時間感覚が変わるなどの特殊な状態になり、高い成果が生まれるとされます。だとすると、本音を言えるとか、心が休まる、というのは、リラックスというイメージがありますが、一方で、だからこそ集中して高いところを目指していく、という側面もありそうですね。
野本その通りだと思います。スポーツ選手が試合に臨む場面を見ても、リラックスし、力を抜くことが重要ですよね。
菊入そうですね。よくスポーツの解説者が、「今のは、ちょっと力が入って失敗でしたね」と言いますね。
野本そうです。力を抜き、「ゆるむ」ことが重要なんです。「ゆるむ」からこそ、集中できます。仕事も同じです。意識も身体も、適切にゆるみ、とり繕わなくていい状態になり、そして集中することが大切です。生理的に、心地よい状況であることです。
菊入野本さんのそういう知見のバックグラウンドはどういうところにあるのですか?
野本NLP(神経言語プログラミング)という心理学をアメリカで学び、トレーナーの資格を取りました。昨年はヨガのインストラクターの資格を取得し、趣味のダンスも教え始めて10年程になります。
菊入そういう身体と意識に関する専門的な知識を総動員して、コンサルティングをしているのですね。あらためて、お聞きします。身体の状態は、仕事に関係しますか?
野本明らかな相関がありますね! 身体の柔軟性が高い人は、考え方も柔軟です。研修やワークショップで、身体をゆるめていくと、着想も柔軟になっていくんですよ。
菊入それはすごいことですよね。具体的な事例はありますか。
神経言語で脳を変える、コミュニケーションを変える
野本ある会社から、「うちの会社は、社員同士のコミュニケーションが希薄である」という相談を受けました。職場に本音が言えない、憂うつなコミュニケーションが蔓延しているという印象でした。検討した結果、ほめるコミュニケーションを徹底的に行うというプログラムを実施したんですね。
菊入それは、受講者にとってはけっこうハードルが高かったのではないですか。できましたか、みなさん。
野本最初は、みなしかめっ面でした。でも、体を動かしつつ、強制的にほめあううちに、みるみる表情が変わってきます。研修のご担当者も驚くような変わりぶりでした。これまでも他の研修を行っていたそうですが、最後まで、みなさん、いやいややっている感が見えていたそうです。しかし、ほめる研修では全く違いました。研修が終わっても、みなさん、なかなか会場から出ていかない(笑)。名刺交換をしたり、楽しそうに盛り上がってしまって。非常に強い一体感がありましたよ。
菊入すごいですねえ。何がそれほど人を変えたのでしょうね。
野本口に出してほめる、というのは、運動ですし、自分が言った言葉を、自分の耳で聞きます。神経言語の知見から言うと、自分のことばで自分の脳が変わるんですよね。筋肉も使っているので、自分の体に「ほめる回路」がインストールされる訳です。筋肉が覚えているので、おそらく現場に戻られてから、無意識に誰かを褒めた人も多いと思いますよ。
菊入脳は変えられるわけですね。しかも、自分のことばで。
野本そうです。どこに焦点を当てるか、ということが変わってきます。他人の嫌なところに焦点を当てていた脳が、いいところに焦点を当てるようになります。
菊入脳を変えることで、憂うつなコミュニケーションが楽しいコミュニケーションに変わったのですね。まさに、コミュニケーションは変えられる、デザインできる、ということですね。
野本はい、コミュニケーションはデザインできます。脳が変わりますから。
菊入断言していただいて、うれしくなりますね。会社員のコミュニケーションは楽しくない、という残念な調査結果も、職場の取り組みによって、まったく変わる、ということですね。