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JTBコミュニケーションデザインの様々な取り組みをご紹介します。

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「クールジャパン・マッチングアワード2022」受賞、『カムイルミナ』の舞台裏

持続可能な体験型観光資源創生を
成功させるポイントとは?

日本の魅力を発信する優れた取り組みに贈られるクールジャパン・マッチングアワード。2022年度の「マッチング賞」を『阿寒湖の森ナイトウォーク KAMUY LUMINA』(以下、『カムイルミナ』)が受賞しました。
『カムイルミナ』は、北海道・阿寒摩周国立公園を舞台に、アイヌの神々"カムイ"の世界を冒険する自然体験型アクティビティ。2019年に開演し、毎年春から秋にかけてオープンしています。子どもから大人まで幅広い世代が楽しめる仕組みが随所に施され、夜の観光消費を促す「ナイトタイムエコノミー」としても注目を集めています。

カムイルミナのプロモーション動画

音声が流れますのでご注意ください

『カムイルミナ』は、国内外のさまざまな企業や自治体、クリエイター、そしてそこに住むアイヌの人々の力を結集することで実現しました。今回この企画のクリエイティブディレクションを担ってきたJCD坂本大輔に、プロジェクトに込めた想いや成功の秘訣、受賞の感想などについて聞きました。

▼プロフィール
坂本大輔株式会社JTBコミュニケーションデザイン
坂本大輔
コピーライター、 プランナー、 クリエイティブディレクターとしてアーティストのブランディングや映像制作、グラフィック、インスタレーションなど、枠にとらわれないフィールドで活躍中。 北海道・阿寒湖アイヌコタンで開催されている阿寒ユーカラ「ロストカムイ」、「KAMUY LUMINA」の企画・原作・クリエイティブディレクションを担う。

  1. 『カムイルミナ』成功のポイント:「自然との共生」
  2. 『カムイルミナ』成功のポイント:「アイヌへの深い尊敬と畏敬」
  3. プロジェクトを成功に導く「クリエイティブディレクターの条件」
  4. クリエイティブディレクター、坂本大輔から見たJCDとは?

1 『カムイルミナ』成功のポイント:「自然との共生」

釧路駅から路線バスで1時間50分。阿寒湖温泉としても有名な阿寒摩周国立公園は、1934年に日本で初めて国立公園に指定されました。数ある国立公園のなかでも、とりわけ太古からの雄大な自然が手つかずのまま残された、極めて希少な環境を維持しています。
この自然環境を生かした観光資源を創出しようというのが今回のプロジェクトです。

初めて現地を訪れた際は、古くからこの地に暮らすアイヌの人々から、警戒心を持って迎えられました。自然環境を脅かすのではないかと懸念されたためです。私達は、誤解が生まれないように、阿寒湖の森を守ろうとする人々と丁寧に対話を重ねることからこのプロジェクトはスタートしました。動物や植生にも影響を与えないよう、いかに自然と共存すれば良いか?北海道大学の教授らを交え、環境アセスメントも実施しました。その結果、『カムイルミナ』は、自然の中で森の木々に投影されるプロジェクションマッピングなどのデジタル映像によって、まるで本物のシマフクロウやシカがそこに存在するかのような臨場感が味わえるアクティビティとなりました。

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臨場感を高める為に、音の演出が欠かせない

自然環境への配慮から大きな音は出せません。でも、物語の世界観に没入してもらうためには、しっかり音声は届けたい。その解決策として生み出したのが、スピーカーを搭載した杖『リズムスティック』でした。かつてアイヌの人々が持って歩いたという二股の木の杖からヒントを得て、制作を担当するカナダのMoment Factory社と何度も打ち合わせを重ね完成したものです。参加者が持って歩く杖をスピーカーにすることで、森に配置するスピーカーから鳴る音量を最低限に抑えながらも、臨場感を格段に向上させることに成功したのです。

リズムスティック

音声が流れますのでご注意ください

2 『カムイルミナ』成功のポイント:「アイヌへの深い尊敬と畏敬」から生まれた

アイヌの協力者との距離を近づける大きなきっかけは、同時期に書き上げた舞台『ロストカムイ』の脚本。

『ロストカムイ』は、『カムイルミナ』を企画するなかで、どうすれば観光客が阿寒湖アイヌコタンまで足を伸ばしてくれるかを考えた結果生まれた別プロジェクトでした。と言うのも、『カムイルミナ』の舞台となる森と、阿寒湖のアイヌの人々が生活するコタン(集落)は、歩いて約20分ほど離れているのです。『カムイルミナ』で集客できるようになっても、その足で阿寒湖アイヌコタンも訪れる人が増えてくれなければ、プロジェクトは成功したと言えません。そこで、阿寒湖アイヌシアター「イコ」を使って『カムイルミナ』と世界観の繋がった演劇の公演を同時に開催することにしたのです。それが『ロストカムイ』でした。

テーマは「アイヌとエゾオオカミの共生」。カムイの中でも高位の存在だったエゾオオカミが、いかにアイヌの人々と共生していたか、なぜ和人の流入によって絶滅してしまったのか。各種の資料を丹念に読み込み、魂を込めて作り上げたオリジナルストーリーです。この『ロストカムイ』がアイヌの人々との架け橋になってくれました。
「アイヌへの深い尊敬と畏敬の念なくして、『カムイルミナ』の成功はありえませんでした。

今回改めて感じた事として、アイヌの人々への迫害と差別は、過去の遺物ではないということです。今なお『文化の盗用・搾取』に疑われるようなケースも存在しています。このプロジェクトを通じて、アイヌ文化のブランド価値をもっと向上させたいと強く思っています。

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このプロジェクトの共同制作者であり、アイヌを代表する木彫作家/アーティストである床州生(とこ・しゅうせい)さんは、

当初、彼はチャラいな(笑)と言う印象でした。でも、いつの間にかそんな彼を受け入れていました。足しげく阿寒に通い、コタンの人々とコミュニケーションをとった結果だと思います。

『カムイルミナ』の元となった物語は、阿寒の「四宅ヤエ フチ」に伝わったサコロベ(口承文芸) 「大飢饉から人々を救ったカケスの神の物語」です。
口承が文字となり、それが舞台化され、今回デジタル技術を使い森の中で映像化されました。アイヌの物語があってこその『カムイルミナ』だと思っています。

『カムイルミナ』を体験した少年たちが♪フーンコ フンコ フンコ♪と笑い唄いながら、私の店の前を通り過ぎていったあの時の感動は、今でも忘れられません。

このプロジェクトを経験した事で、私自身やりたい事やるべき事、更には、やらなければならない事がイメージできた気がします。

と、メッセージを寄せていただきました。

現在『ロストカムイ』は開演以来2万人以上の動員を記録した阿寒湖アイヌシアター「イコ」を代表する演目に成長。『カムイルミナ』と『ロストカムイ』が2大観光拠点となって経済的にも相乗効果が生まれています。

『ロストカムイ』プロモーション動画

音声が流れますのでご注意ください

3 プロジェクトを成功に導くクリエイティブディレクターの条件

―今回、クリエイティブディレクターとして、各種の脚本制作、クリエイターのアサイン、音や映像のテクニカル調整、省庁や各企業との交渉窓口など多岐に渡る業務を担ってきました。改めて、どうすればプロジェクトを成功に導けるのでしょうか?

一言でいえばクリエイティブとコミュニケーションどちらにも精通したバランサー的なリーダーの存在が大切だと思います。個々に突出したプロフェッショナルが集まりさえすれば良いものづくりができるわけではありません。各所に気を配りつつ指揮をとれるリーダーがいないことには「着地点」がぶれてしまいます。だからこそ僕はチームのバランサーでありたいと心がけています。そしてそれが自分のクリエイティブディレクターとしての強みになっていると思います。

4 クリエイティブディレクター、坂本大輔から見たJCDとは?

広告代理店所属のコピーライターとして活動し、広告・映像制作会社を経て、2017年からJCDに所属しています。これまで、プランナー、 クリエイティブディレクターとして国内外の有名アーティストのプロモーションやインタラクティブ広告に携わり、いくつか賞も受賞しました。

JCDは、複数の会社が合併してできていることも背景にあるのかもしれませんが、コミュニケーションデザインというコアバリューはあるものの、事業に『これ』という凝り固まった制約が少なく、事業領域が広いところが魅力だと思っています。
そして、JCDには優しい人が多いです。社内に対しても、クライアントや社会に対しても。にぎやかしの広告やイベントを作って終わるのではなく『本当の課題解決』に向けて、本気でクライアントに寄り添う仕事をしているなと思います。自分自身も携わる案件は、一過性のブームやバブルで終わらせることなく、手がける人・モノ・コトのカルチャー自体のブランド価値の向上と、その先の未来につながるものでありたいと思っています。

今回床さんが「クールジャパン・マッチングアワード2022」の受賞を知らせてくれたことがなにより嬉しかったです。今回のプロジェクトが阿寒のブランディング向上に少しでも寄与できたなら、うれしく思います。
一度訪れると、また来たくなる。不思議な魅力がある土地、それが阿寒です。

カムイルミナ

皆様も是非『カムイルミナ』の世界感をご堪能下さい。
https://www.kamuylumina.jp/
■カムイルミナは シーズン営業となっております。詳しくはHPをご覧ください。

床州生さん床州生(とこ・しゅうせい)さん
アイヌ民族の木彫作家であり、阿寒湖アイヌコタンの劇団で演出家でもあった故床ヌブリを父に持つ。札幌のデザイン学校卒業後、東京で就職。実家の店を継ぐために24歳で帰郷した後、アイヌ古式舞踊などの伝統文化を学ぶ。阿寒アイヌ工芸協同組合で理事を務め、『ロストカムイ』の舞台監督を務める。

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