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「リーダーシップ基礎力開発と交渉学」セミナーレポート<前編>

交渉学のススメ。
アカデミア&ビジネス双方の立場から白熱のクロストークセッション。

ビジネスの現場においてコミュニケーションの核となる対話力は、交渉を進める上で、欠かすことのできない重要なスキルとなっています。2018年12月14日にJTBコミュニケーションデザインで実施されたセミナーでは、アカデミックな視点から交渉学の実務教育の開発と普及に取り組んでいる慶應義塾大学法学部 田村次朗教授と、ビジネス・経営の現場で交渉学を活用している日本サッカー協会 専務理事の須原清貴氏を迎え、それぞれの立場から交渉学についての講演と対談形式でリーダーシップ基礎教育における交渉学の有意性についてお話しいただきました。

その講演内容や白熱したトークセッションを、2回に分けてレポート。前編となる今回は、田村教授と須原専務理事それぞれの講演内容を紹介します。

 

第一部 アカデミックな立場からの交渉学。その重要性とは?

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スピーカー:田村 次朗氏
慶應義塾大学法学部教授にして、日本における交渉学の第一人者。ハーバード大学国際交渉学プロブラムのインターナショナル・アカデミック・アドバイザーも務める。学究面においてばかりでなく、ダボス会議の「交渉と紛争解決」委員会の委員を務めるなど、まさに国際交渉の最前線でも活躍経験がある交渉学の実践者にして、普及にも取り組むプロフェッショナル。

交渉力と対話力が基礎として身についてこそ、
リーダーシップ力は発揮できる

今日お集まりいただいた皆さんにお話しする「リーダーシップ基礎力開発と交渉学」。先に結論を言ってしまうと、リーダーシップ教育というものは実際には存在しません。リーダーシップに必要となってくる個々の専門領域の学問をマスターしてこそリーダーシップ力が発揮できるというものなのです。その専門領域のひとつとして「交渉学=ネゴシエーション」があり、今ではハーバード大学でもコア科目となるほど重要な位置を占めています。

それでは、交渉力と対話力を基礎として身につけさせることこそがリーダーシップ教育につながる理由、そして「なぜ、交渉学が今の社会において必要なのか?」について、順を追って話を進めていきましょう。

交渉学と同時にグループダイナミクス、いわゆる「対話学」を学ぶことも大切です。このふたつのナレッジが機能してこそリーダーシップの基礎力が発揮できるからです。

3人以上の人が集まると、そのグループ内にはグループダイナミクスという力学が発生します。この関係性を理解し、個々の人やグループがともに力を発揮できるようにするためにはどうすればよいのか。つまり「対話力」を身につける必要があるのですね。国際会議などのハードな交渉が求められる場ばかりでなく、ビジネスの現場など、常日頃からコミュニケーションが要求される環境においても然りというわけです。

交渉学を学んでおくことは、リーダーシップを発揮する上でもはや必要不可欠な要素と言えるかもしれません。交渉力や対話力を持つことは、個々の人々が備えておくべき重要なコミュニケーションスキルであり、リーダーシップ基礎教育を考える上でも大切な位置付けとなるでしょう。

交渉学は、テクニックを学ぶことではない

もともと交渉学とは、紛争解決・問題解決の学問としてハーバード大学のロジャー・フィッシャー教授のもとで研究が進められてきました。今ではハーバード大学ビジネススクールやケネディスクールにおいても、交渉学のプログラムは人気科目のひとつとなっています。

資本主義社会はビジネスを中心に動いています。そこで求められる交渉力は、まぎれもなく個々が身につけておかなければならない重要、かつ基礎的なアカデミズムなのです。

私のハーバード時代の恩師ロジャー・フィッシャー教授から受けた言葉に、「賢明な合意を目指しなさい」という教えがありました。これは自分と相手ばかりでなく、社会全体を見て物事を解決へと導くことが大切だということを意味します。

そのとき私は気づいたのですが、日本でも500年以上前から近江商人たちの間で実践されてきた「三方よし」=「売り手よし・買い手よし・世間よし」の発想と同じであると。これは「賢明な合意」を先取りしている概念だと思いました。日本人は、相手と中長期的な関係を構築できるように、誠実さや信頼を基調として「交渉」を捉えてきた歴史をすでに持っていたのです。

交渉「学」が交渉「術」といった単なるテクニックを学ぶことではない点を、まずは誤解なきように。交渉学とは、信頼"をベースにしたコミュニケーションをしっかりと構築していくことなのです。

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「三方よし」の考えを実現するためのロジックとは

しかし実際、その素晴らしい「三方よし」の考えを実践しようとしても、なかなかうまくいかない。私たちには何が足りないのでしょうか。これは、日本人は今まで困難に突き当たったとき、とにかく根性や努力で勝負しようとしてきたことに起因します。残念ながらそれでは交渉力を基底としたリーダーシップにつながっていかない。「三方よし」の考えを実現するためには、そこにロジックが必要なのですね。これが交渉学という教えにつながっていくのです。

アカデミックな要素とビジネスでの実践を融合させて交渉学を学ぶには、ケーススタディが重要になってきます。ですからもしみなさんが交渉学の研修を始めたなら、どんどん模擬交渉を実施してもらいます。これは文科省も最近推奨している、いわゆるアクティブラーニングですね。

そのアクティブラーニングをしてもらう前には、交渉学に大切な3つの軸を学んでもらいます。まず、交渉学の論理とは何か?これは相手の考えを傾聴して、理解することから始まります。次に、事前準備として今日短い時間ではお話しできませんが4つの視点(視点獲得能力)というステップを学びます。最後に、現場でどうするか?つまり現場力を鍛えていきます。

プラクティスとアカデミックの融合を目指した
アクティブラーニングを

交渉学や対話学を学ぶ重要性は、具体的な世界情勢や国際政治の中でも頻繁に見かけます。実際にあった事例として、アメリカのピッグス湾事件での失策とキューバ危機におけるケネディ大統領の学びを例に挙げてお話ししましょう。私が交渉学を専門にしたいと思った事例でもあります。ケネディ大統領兄弟がいかに学び、そして結果を出していったか。これはまさに交渉学の醍醐味と言えるものです。

少しだけ研修の内容についてお話をしておきましょう。リーダーシップ基礎力を開発するために実際の研修では、それぞれ各ステップに分けて進めていきます。全てアクティブラーニングです。その上で、従来型の知識を重視したハードスキルを土台として、対話や議論を核に据えたソフトスキルをバランスをとりながら学んでいきます。プラクティスとアカデミックがうまく融合してこそ、本来のリーダーシップ基礎力を発揮できる研修になる、と私は考えています。

 

第二部 経営現場における交渉学

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スピーカー:須原 清貴氏
公益社団法人 日本サッカー協会の専務理事を務める。 住友商事、ボストンコンサルティンググループ(BCG)で実務経験を積んだ後、プロフェッショナル経営者としてのキャリアを歩む。GABA、キンコーズ・ジャパン、ベネッセ国内英語カンパニー、ベルリッツ・ジャパン、ドミノ・ピザ ジャパン等において、社長もしくはそれに準じるポジションで企業価値向上に貢献したのち、2018年3月から現職。慶應義塾大学法学部法律学科卒。ハーバードビジネススクール(MBA)卒。

日々、現場で繰り広げられる
"対話""コミュニケーション""ネゴシエーション"

まずは私自身が現在所属している日本サッカー協会(JFA)についてお話したいと思います。 日本サッカー協会は、主にサッカーを通じた活動をしている様々な団体を統括する日本で唯一の立場としての役割を担っています。国際サッカー連盟(FIFA)や国際オリンピック委員会(IOC)といった国際的な団体との交渉もあれば、地域や都道府県のサッカー協会と一緒になって、そのダイナミズムのもとで、どのように物事を進めていくのかを考えるなど、その業務は多岐にわたっています。日々の現場では、非常に複雑な意思決定とコミュニケーション、エクゼキューションが求められています。

はじめに言っておくと、私たちは勝つことを目的としておりません。勝つことはあくまでも目的を達成するための手段なのです。スポーツですから勝てば感動が生まれるのは当然ですが、それよりも「スポーツをより身近にすることによって人々が幸せになれる環境を作りあげる」「サッカーを愛する全ての人に希望と感動を与える」「国際社会に貢献する」といった理念・ビジョンの達成を目的にしていて、現場では毎日のように"対話""コミュニケーション""ネゴシエーション"が繰り広げられています。

エンドユーザー、スポンサー、日本サッカー協会で目指す
「三方よし」の関係性

また日本サッカー協会は統括団体としては珍しく、定量的な目標を掲げています。2050年には「サッカーファミリーを1,000万人にする」「再びFIFAワールドカップを日本で開催し、日本代表チームが優勝チームになる」といった約束を公言している日本のスポーツ団体としてはとても珍しい存在なのです。こうした条件を根底に持ちながら、協会の収益面での状況を踏まえたスポンサーとの関係や選手たちの強化・育成などにおいて、多方面との利害関係の交渉を進める場面があります。

例えば、スポンサーとの関係では、時代や環境の変化がある中で、これまで以上に信頼関係をベースにしたものへ基軸を変えていく必要がありました。スポンサーにメディア露出という対価を約束するだけの関係性ではなく、今までのサッカーファンを、新たにスポンサーファンに変えていけるような取り組みを始めています。さらにエンドユーザーやサポーターの皆さまにもメリットを感じてもらえるような工夫を進めています。

エンドユーザーの情報を、スポンサーへの新しい価値につなげていく。今までとは視点を変えてエンドユーザー、スポンサー、そして日本サッカー協会がともに共通の利益を見出せる体制へとシフトすることにチャレンンジしています。この提案が非常にスポンサーに響きました。

これはまさしく先ほど田村教授が語られた「三方よし」の関係性を構築することなのですね。この概念というか、つまり相互利益を目指して交渉するということは、単なる駆け引きではなく、共通の問題解決を見出し、全体として利益を得ることに尽きるのです。こうした発想をもつことが、いわゆる交渉学、対話学へとつながってくるものだと思っています。

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もしビジネススクールで勉強するなら
ファイナンス、アカウンティング、そしてネゴシエーションを

経営現場における交渉学とそのやり方について、ハーバードビジネススクールで学んだ自身の経験を踏まえてのお話もしておきましょう。何度も申しますが、やはりビジネスの世界でもっとも重要視されるのは、問題解決能力です。私はハーバード時代に初めて交渉学という概念に触れ、頭がかち割られるほどの衝撃を受けたものです。

当事者が置かれた状況をいかに俯瞰的にみて、一対一の対話の中で、どうやったら当事者同士が関わる問題を一緒に解決し、全体としての利益を得られるのか。その議論があってはじめて意味のある問題解決につながっていくという交渉学の概念を手法とともに学んだことは、その後のビジネスの世界で大いに役立ちました。ビジネスパーソンとして、できるだけ早い段階で交渉学のフレームワークに触れておくことは、学んだ人に非常に多くのメリットをもたらしてくれるでしょう。

後輩たちにも言っていますが、もしビジネススクールで勉強するならファイナンス・アカウンティング、そしてネゴシエーションは必ず学んでおくべきポイントだと伝えています。なぜならこれらの知識は、ビジネスの世界で普遍的に通用する価値があるからです。

今日こうして集まっていただいた皆さんは、交渉学や対話学を通してのリーダーシップ基礎力開発について、非常に興味をお持ちのことでしょう。私の拙い経験からのお話しで恐縮ですが、少しでも皆さまの刺激になればと思ってお話しさせていただきました。

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田村教授・須原専務理事おふたりの講演内容は、ビジネスの現場に身を置く多くの参加者の胸に共鳴する内容が多く、皆熱心に耳を傾けていました。

今回は、セミナー第一部、第二部と交渉学についてアカデミア、ビジネス双方の視点からそれぞれの講演の様子や内容をレポートしました。次回は、講演後に行われた田村教授と須原専務理事の対談の様子をご紹介いたします。

■交渉力プログラムのご案内

ー交渉力プログラムラインナップ(日本語)   (90KB)
 ・交渉力(Negotiation)-「賢明な合意」形成の論理と実践-(1日版)   (106KB)
 ・対話力(Group Dynamics)-個人・組織の力を生かす論理と実践-(1日版)   (105KB)
 ・交渉力(対話力)研修(2日版)
 ・交渉力セミナー(2時間/講演形式)

ー交渉力プログラムラインナップ(英語)   (87KB)

■本件に関するお問い合わせ先
JTBコミュニケーションデザイン HRソリューション事業部 モチベーションディベロップメント局
担当:伊藤・戸田 TEL:03-5657-0619

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